雪の残り【48】


 

 先日とは違って、清潔感ある白を基調にしたブラウスにピンク色のスカートにオレンジ色のストラップシューズ。どうやら少し化粧もしているようだった。この間は、男の子っぽいイメージだったのに、今日は普通に女の子をしているような感じ。人間って、どうして来ている服でこんなにその人の印象が大きく変わってしまうのだろう?

 

 純一君もそんなことを思ったようだった。

 

「何だか、今日はちょっと女の子っぽい印象だな」

 

「今日は? ちょっと?」

 

 純一君が考えなしに放った一言に、若葉さんは心なしか怒気がこもったようなツッコミを返す。本当に失礼な男だ。私も同じ事を考えたけれど、口には出さないだろう。……多分。

 

 若葉さんの反応に純一君が慌ててバタバタと両手を振って否定すると、若葉さんは「せっかく粧≪めか≫し込んできたのに、その反応かよ」とちょっとがっかりしたようなに言いながら、がくんと肩を落として首を左右に小さく振った。

 

「……ったく。君も孝ちゃんも、私のことを女扱いしていないんだよな」

 

「待て待て。少なくとも僕は……」

 

 純一君は焦りながら若葉さんの言葉を打ち消そうとしたものの、口にしようとした言葉がとても素面では言えない言葉だと思ったらしく、口の中でゴニョゴニョと意味不明の台詞を言うだけになってしまった。その代わりに、話題を変えて、

 

「き……今日も、名城の必勝祈願に?」

 

 若葉さんは「違うよ」ときっぱりと答えた。

 

「今日は、君に会いに来たんだよ」

 

 ちょっとだけ頬を赤く染めて、さらに言葉を続ける。

 

「この間の言葉は……まだ有効?」

 

「え……?」

 

「ほら……『僕と付き合ってほしい』……ってのはさ」

 

「で……でも、君は……名城の事が……」

 

 純一君には「好きなんじゃないのか?」という問いを続けることはできなかった。

 

「孝ちゃんは大切な幼馴染だよ。色々ともやもやしていたことがあったけれど、それにも一つケリがついたっていうか、一段落したし。目の前の霞がすっきりと晴れたような気分だよ」

 

 それはきっと、掛け値のない本音なのだろう。その結果として、若葉さんが自分にとって名城孝樹という人間がどういう存在であるのか、ハッキリと認識して出した結論なら、それもまた良し、なのだと思う。

 

 でも、その後に続いた台詞は、私にはどうにも腑に落ちないものだった。

 

「孝ちゃんのとなりにいるべき人は私じゃないんだよ。それがよく分かった。孝ちゃんを、ずっと見てきてくれた人が、他にいて……陽村さんの方が、孝ちゃんにはずっとお似合いだし……」

 

 私には言い訳めいた物言いに思え、釈然としなかったけれど、好きな子から逆告白された格好になった純一君には、言葉は聞こえていても、悪いようには受け取れないんだろうと思う。

 

 それに……。

 

 純一君を真っ直ぐに見つめる目が、ちょっとだけ潤んでいる。私はいつだったかのことを思い出した。まだ夏休みに入る前だ。夜空を眺めながら孝樹君のことを語る彼女の、あの表情が純一君に向けられていた。

 

「それに……君も、私のことをずっと見てくれていたんでしょう?」

 

 純一君は、口をパクパクさせながら、うんうんと何度も首を上下に振った。それを見て、若葉さんは声を立てずに笑った。

 

「きっと、人には一緒にいるべき人がいるんだよ」

 

 さっき、若葉さんが純一君に向けていた顔は、本当に純一君に向けられていたものだったのだろうか……? そんなことを考えている私は天の邪鬼なんだろうか。

 

 せっかく大好きなお友だちが、大好きな娘に告白されているんだから、素直におめでとう、と祝福してあげればそれでいいんだろうか。なんで、素直にそう言ってあげられないんだろう……。

 

 

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