雪の残り【41】


    そんな私の表情に気付きもせずに、純一君は色々と昨日の話を続ける。F市から電車で1時間ほど離れたK市まで出てきたのだという。K市はF市の10倍もの人口がある大都市で、街の規模はF市の比べ物にならないそうだ。

 

 そんな大きな街なのに、どうして偶然出会ってしまったり、出会わなかったりするのだろう? 偶然というのは何故、そんなに不公平に出来ているのだろう……と思うしかなかった。

 

 私の憂鬱の一番の理由……。ほんのついさっき、この中庭で、私の目の前で展開された出来事を、純一君は知らない。ここで、2人の女子生徒の話を聞いてしまったのは、私が木の上で寝そべっていたときであり、純一君がここに来るほんの少し前の事だった。

 

 純一君がほんの少し早く中庭に来ていれば、遭遇していたはずだ。そう……まさしく、『女の戦い 第弐幕』に。

 

 私は木の上にいたから2人――若葉さんと愛莉さんは、私の存在に気付いてはいなかったし、仮に気付いていたとしても、2人とも気にしなかっただろう。

 

*     *     *

 

「……まったく。いきなりこんなところに呼び出して何の用なのよ」

 

 愛莉さんは、短くなった髪をいじりながら尋ねる。以前の、正直見ていてうっとうしそうだなと思う長い髪の印象が強いから、肩まで切ったらものすごく短くなったように見えるけれど、ショートカットにしている若葉さんよりずっと長い。

 

 髪形に関しては個人の嗜好の問題ではあるのだけれど、短くした方が長いよりも社交的な印象を受ける気がする。それも、個々人の主観の問題に過ぎないのだろうけれど。

 

「昨日……K市の△△デパートの時計売り場にいたよね。孝ちゃんと一緒に」

 

「ええ。いたわよ」

 

 愛莉さんの返答には、隠そうという意思は見えなかった。少なくとも、今の愛莉さんには若葉さんへの遠慮は全くないようだった。

 

「名城君が通っている合気道の道場には私の姉が通っていてね。先輩後輩ということもあって、名城君は姉には頭が上がらないの。姉の名前を出したら、渋々つきあってくれたよ」

 

 と続けた。確かに、愛莉さんのお姉さんの話を聞いたことがあったような気がする。それにしても、お姉さんをダシに使うあたりはさておいても、渋々と分かっていてつきあわせるあたり、彼女らしいなと思ってしまう。

 

「わざわざ、そんなことを聞くために呼び出したのかしら? 同じ学校の同級生同士が一緒に出かけたらおかしいかしら?」

 

「べ……別におかしくはないけれど……」

 

 以前にも、愛莉さんのこんな表情を見たことがある――と思った。酷く好戦的で、その状況を楽しんでいるような目つきだった。

 

「でも奇遇よね。あんなに大きな街で、同じ頃に、同じ場所にいるなんてね。見かけたなら、声をかけてくれればいいのに」

 

 そんなことはできっこないことを分かっているくせに、平然と言うのが恐ろしい。

 

 しかし、

 

「……陽村さんは、孝ちゃんの事が好きなの?」

 

 若葉さんの口から突然出てきた単刀直入な問いに、愛莉さんがたじろいだ。あまりにも簡潔で、あまりにも核心をついた問いかけに『女の戦い 第二幕』にして、初めて若葉さんの有効打が入ったような感じだ。

 

「去年のインターハイに、私、こっそり孝ちゃんの応援に行ったの。そこで、あなたの……愛莉さんの姿を見かけたの。応援したいけれど、声を出して、必死で声援を送りたいけれど、それをずっと我慢しているって……そんな顔をしてると思った。その時から、思ってた。あなたは、孝ちゃんのことが好きなんじゃないかって」

 

 若葉さんが話している間に、愛莉さんは既に体勢を整え直していた。

 

「……YESって言ったらどうする?」

 

 愛莉さんの問いは、相手の出方を見るための牽制の一撃。

 

 その問いに対する若葉さんの回答は、煮え切らないものだった。

  

「どうにも……言えないけれど……。でも、孝ちゃん、もうすぐ大会なんだよ。こんな時に、引っ張り回すなんてひどいよ……」

 

 

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