いつか必ず復讐のチャンスは来る。
俺から生きがいも、人間の姿も、全てを奪ったあの男の命を奪うまでは、俺は死ねない。
どれだけかかろうと、俺は生きてやる。
いつか邂逅を果たすその時……。
その時こそ必ず、俺は奴をこの牙の餌食にしてくれる……。
九.
俺はその時を待ち続けた。昼が、夜が、待ち続ける日々は瞬く間に過ぎ去っていった。その数を数えるのは1000を越えたあたりでやめた。
閉ざされた北の森の中では季節を感じるのは難しい。
俺の命を狙って何人もの兵士や退治屋たちがやってきた。俺はそのことごとくをこの牙で引き裂いた。何人も殺した。手強い相手もいたが、俺は決して負けなかった。
俺は負けるわけに行かなかった。ランバード・ユミールに受けた仕打ちに対する復讐を果たすまでは、決して負けるわけにはいかないのだ。
ユミールのために犠牲になったのは俺だけではない。俺がその人生を犠牲にしても守りたかったものまで、全てが奪われた。
奪われたものは返って来ない。
俺にできるのは奪い返すことだけだ。
その一念だけを胸に、永遠にも感じるその時間を生き続けた。
そして、待ちに待ったその日が――来た。
俺の口の中に激痛が走った。その直前に口の中に銀の弾丸が飛び込んできたのを見逃してはいなかった。俺は、弾丸が発射された方向に顔を向ける。
射手の顔を、俺ははっきり見た。
その瞬間、俺を満たしたのは、歓喜だった。
木の陰から覗くその一見人畜無害そうな優男な顔を。俺に向けられた二つの銃口がついた拳銃を。俺は忘れた日は一日たりとない。
待っていたのだ。
何度ももう二度と来ないのではないかと思った時もあった。
だが、待ったかいがあった!
ランバード・ユミール!!
俺の前でミスリルの剣を携えていた男など、どうでもいい。俺に拳銃を向けたユミールがさっと大木の幹に姿を隠したのを俺は見逃さなかった。
ユミールに向けて一直線に突き進んだ。
生涯、これほど速く駆けたことは、人の身であった時にさえなかっただろう。
「逃げろ! ユミール!」
ミスリルの長剣を構えた男が叫んだのが聞こえた。
もう遅い!
俺がユミールが身を潜めた木を体当たりしてへし折ると、咄嗟に防御姿勢を取ったユミールの姿が出てきた。ユミールが真後ろに飛ぶのを低い姿勢から、ガブリと咥えた。
口の中に、鉄錆にも似た味が拡がっていった。
今度こそ、ユミールの下半身を咥えたのだ。
もう逃がさない。俺はさらに咥えた牙に力を込める。俺の目の前のユミールの顔が恐怖と苦痛でゆがむ。左腕で何度も俺の顔を叩いた。
左腕?
お前の左腕は俺が食いちぎったはずだが、いつの間に生えてきた?
……まぁ……そんなことは、どうだって、いい。
俺は下顎と上顎に力を込めた。その感触は感触は、明らかに人間を食いちぎった時のそれだった。
俺は本懐を遂げた。
長い長い時間だった。
あまりにも長い時間がかかってしまったが、この悪魔の化身の如き男は、胴体を真っ二つにされ、上半身が俺の口から離れてずり落ちた。
ゆっくりと落ちていくその姿を見ながら、俺は、歓声を上げることのできないこの身を、改めて恨めしく思った。
……ざまあみろ! ランバード・ユミ――。
次の瞬間、俺の首の右側面に鋭い痛みが走った。鋭利な刃物で切り裂かれる痛み。その痛みを俺は知っていた。大蛇になってからも何度か経験した痛みだった。そう、最後に経験したのは数日前だ。
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