北の森の大蛇【16】


 

 俺の突き上げた刃は、見事に大蛇の喉を切り裂いていた。いくらなんでも致命傷だろうと思いたかった。剣を手放すと、俺には護身用の短刀以外に武器がなくなるのだから。

 

 幸いなことに、大蛇は真横に向けて倒れていった。

 

 ゆっくりと――。

 

 そして、轟音を立てて横倒しになった大蛇は、全身を痙攣させていたが、もはや動くことはできないだろうと思えた。

 

 それは300年も続いた北の森の大蛇との戦いに終止符が打たれた瞬間だった。300年――それほどの期間にわたって王国を苦しめてきた大蛇の最後とは思えないほどのあっけなさだったが、魔獣との戦いはいつだってそう。一瞬で殺すか、一瞬で殺されるか、なのだ。

 

 俺は、剣を取り返すために大蛇に向けて近づいて行った。

 

 戦っていた時間はわずかだったが、俺は精神的にも肉体的にも疲れていた。しかし、それもこの後で受け取ることができる報奨金がいやしてくれるだろう。

 

 真横に倒れたままの大蛇を見ると、まだ息があるようでヒュー、ヒューと裂けた喉から空気が漏れる音が聞こえた。

 

「……」

 

 大蛇が少し顔を動かし、俺の方に目を向けた。相変わらず感情のこもらない目だったが、俺は、「殺してくれ」と言っているように見えた。おそらくそう時間もかからずに死ぬだろうが、介錯くらいしてやるのが死力を尽くして戦ったもの同士の礼だろう。

 

 俺は倒れた大蛇に近づいていった。懐から大蛇の血を拭くための布を取り出し、柄に付いた血液を拭い取ると、大蛇の首に刺さったままの剣を抜こうと手を伸ばした。

 

 柄に手を触れた――その時背中に激痛が走った。

 

七. 

 

 俺とユミールは最初に大蛇と遭遇した場所へと戻っていた。太陽の位置、木々の枝振りなどを確かめながら、この広大な森の中から1箇所を見つけ出すのは大変だったが、以外にあっさりと戻ることができた。自分が思っているほど移動していなかったためだった。

 

 俺が最初に大蛇と戦った場所でもあるし、俺がユミールの投げたナイフによって背中に傷を負った場所でもある。あのまま戦っていれば止めをさせただろうに、と思うと少し口惜しい。

 

 こうして改めて見ると、その直径約100歩ほどの空間は、手入れする者もいないはずの森の中で、不自然に開けていた。その中心に、干からびたミイラのような死体が横たわっている。この死体には不思議なことに、一本の長剣が突き刺さっていた。

 

 この、何者をも拒むような森の中で、不自然な人工物――何者かに手を加えられた数少ない形跡――があることは、異常と見なすのが当然だったのだ。俺もまた、森の中に長くいすぎて、通常と異常を区別する能力を衰えさせていたのかもしれない。そう、この森に入ってから常に感じている誰かの視線のような奇妙な感覚のように。

 

 このミイラは、もっとよく調べてみる価値がある。

 

 と、同時に、ミイラに近づいた瞬間に大蛇が出現する可能性が高い。

 

 俺は、不思議なほどきっぱりと、その可能性が間違いなく実現すことになるだろうという確信を抱いていた。

 

「奴は俺たちが思っているよりも頭がいい」

 

 俺は言いながらユミールを開けた部分の外側、比較的幹の太い木の陰に隠れさせた。彼の手の中には銃が握られている。銃身の長い、銃口が二つ付いた拳銃だった。

 

「俺が近づいていく……奴が出てきたら容赦せずに……撃て!」

 

 ユミールは取り出した拳銃に銀製の弾丸を装填した。

 

 魔獣には銀のナイフ、銀の弾丸、というのは定番だが、具体的に銀製の武器が魔獣に効果があったという印象はない。

 

 しかし、魔獣には銀の武器というジンクスを頑なに守り続けて成果をあげているモンスターハンターがたくさんいるのも事実だ。言い伝えには、何かしかの根拠がある。根拠がなくとも信じることは何かしかの力になる。

 

 

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