北の森の大蛇【14】


 

 六.

 

「これで何体目だ?」

 

「3体目です」

 

 俺の問いにユミールは素っ気ない言葉を返した。北の森に入ってから早4日。その間、見つけた死体の数である。ユミールは見つかるたびに比較的大きな木を見つけては穴を掘ってその中に死体を埋めた。

 

 死体は古いものばかりだったが、寒冷な気候のために腐敗が進んでおらず、ごく一部が白骨化した者が多かった。

 

「墓標のつもりか?」

 

 簡素な方法で死者を弔っているユミールの後ろから俺は尋ねた。

 

「いえ……命は、巡ります」

 

 彼の返答の意味が俺には理解しかねたが、ユミールは立ち上がり俺に先に進むように促したので、真意を問うことができなかった。そして、すぐに忘れてしまった。

 

「……また、見つかりましたね」

 

 互いに黙ったまま、草を踏み分けて歩いていくと、少し開けた場所に出た。その中心部に一体の死体が横たわっていた。一目でわかる。生きてはいない、と。

 

 俺たちは慎重に近づいていった。

 

 その遺体はこれまでのものとやや異なっていた。

 

「天然ミイラですね。比較的珍しい現象ですが」

 

「ミイラ?」

 

「遺体を保存する技術です。内臓を取り出し、水を抜き遺体を乾燥させて……」

 

「いや、説明はいい」

 

 過程は聞かなくても完成品が目の前にある。気分の悪くなる話はそれで十分。

 

「早い話が、人間のドライフルーツってことだろ」

 

「ここの環境が、ミイラ化するのに適しているのでしょう」

 

 ユミールはかがんでミイラ化した死体に手を合わせたが、名も知らない使者のために悼む時間はほとんど――全くなかった。

 

 俺たちに降り注ぐ日差しを何かが遮ったのだ。

 

 とっさにそれが何かを悟った俺とユミールは同時に顔を上げ、そして俺は剣を抜き、ユミールは大きく後ろへ跳躍して距離を取った。

 

 振り返ると、予想したとおりの存在がそこにいた。

 

 大蛇の胴体より一回り大きく平たい頭部は、俺たちのずっと頭上にあった。

 

「黒いな」

 

「でかいですね」

 

 軽口ではなく素直な感想だった。

 

 まるで巨木のような胴体には、黒光りする細かい鱗が無数に張り付いていた。

 

 ……何時の間に!

 

 なぜこんなでかい奴の接近に気付かなかったのかと内心では動揺していたが、とにかくそれは飲み込む。敵に先手を取られるのは痛いが動揺して誤った判断を下すのはもっと痛い。ユミールの表情にも動揺は見えない。

 

 ……大丈夫。戦える。

 

 俺はすらりと剣を引き抜いた。ミスリル製の刃が、大蛇の鱗と同じようにきらりと光った。

 

「蛇の鱗は魚の鱗と違って硬質化した皮膚だと言われているから一枚一枚はがれることはないと聞くが、あいつもそうなのかな」

 

「こうして見た感じかなり硬そうですね」

 

 大蛇は、その巨体をかがめるようにして大きな頭を下げると、咆哮をあげた。その声は、蛇のしゃーっ! しゃーっ!という特有の者ではなく、ごーっ!という、台風の中にいるかのような声だった。

 

 臭い息が台風のような強風と共に俺たちに叩きつけられる。

 

 改めて、こいつは蛇の姿をした別の全く違う何かだと感じる。

 

 その大蛇が、咆哮を止めて、その感情のこもっていないような、丸く黒い目を俺たちと同じ視線まで下げて、俺たちに向けたのが戦いの始まりだった。

 

 

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