雪の残り【18】


   

 若葉さんの姿は、チャイムが鳴った直後に見かけたけれど、あっという間に走り抜けていったので、何もしようがなかった。事故などに巻き込まれないように祈るばかりだ。

 

「……そうか。部活にも出ずに、何をやっているんだ。あの馬鹿」

 

「それだけ孝樹君のことが心配なのよ」

 

「だからなおさら……」

 

 純一君が不機嫌をそのまま張り付けたような顔を私に向けた瞬間、そのままのポーズで凍りついた。

 

 いつの間にか、生徒たちに囲まれて好奇の目で見られていた。ここが、下校中の校門付近だということをすっかり忘れていたのだ。

 

「ね……ねぇ。今のって腹話術?」

 

 私たちを取り囲んだ10人余りの生徒の中から、女子生徒が私を指さして尋ねた。

 

「え……えっと、うん、その通り」

 

 純一君は言いながら私の首の後ろを掴んで持ち上げた。

 

「ほら、何か言って?」 

 

 心の中ではドキドキしつつも引きつり笑顔を浮かべ、「は、はぁ~い」とか言ってみる。

 

「お、おおー!」

 

 と、ギャラリーから歓声が上がった。私は、何とか愛想笑いは崩さないようにしながら心の中で問いかける。

 

 な……何でこんなに盛り上がっているの? 普通は猫って喋らないものじゃなかったの? 見世物にされるってこんな感じ?

 

「もっとやって見せて」

 

 という言葉に乗せられて、用務員のおじさんがよく口ずさんでいるタイトルは知らない歌を歌いながら、実は私が――いや、純一君が思っているよりも、私が喋れることがバレるのは大したことではないのかもしれない、と思っていた。

 

 もちろん、人間の中にも先日の3人組や、愛莉さんみたいな人もいるのだから、まだ試してみる勇気はなかったけれど。

 

 *     *     *

 

 校門のところで集まった生徒たちから私と純一君が解放されるまでしばらく。私たちは結局先日の公園に赴いていた。

 

 純一君はここに来るのはいかにも嫌々という感じだったし、正直、私もここに来るのは気が乗らなかった。もしも、あの時の悪ガキたちと顔を合わせたら……と思うとぞっとする。今日は純一君と一緒だけれど、残念ながら彼が孝樹君ほど頼りになるとは思っていなかった。

 

 純一君が渋々ながらここに来たのは、私と同じことを考えたからのようだった。つまり、先日私に酷いことをした連中が、若葉さんと顔を合わせたら、間違いなくトラブルになる。

 

 私たちが、公園にたどり着いた時に、そんなことにはなっていなかった。若葉さんは、道行く人に声をかけては頭を下げていた。

 

 声は聞こえなくても、何をやっているのかは分かる。土曜日の昼過ぎごろに「高校生と中学生くらいの数名がトラブルになっているのを見なかったか?」と尋ね、実のない返事にお礼を言って……きっとそれをずっと繰り返していたのだろう。

 

「何をやっているんだよ」

 

 純一君は若葉さんにズカズカと近付いて行って、不満を込めて怒鳴り声を上げた。

 

「森上……なんでここにいるの?」

 

「藤崎がここにいるからだよ」

 

 言ってからしまったという顔をして、純一君は額を押さえた。

 

「本当!」

 

 若葉さんは嬉しそうに両手を胸の前で合わせた。

 

「手伝いに来てくれたの? 目撃者探し!

 

「あ、ああ。そうだけど」

 

 純一君の「不本意ながら」という態度を隠しもしない反応を聞いた若葉さんが嬉々とした表情を浮かべるのを見て、純一君がぼそっと呟いたのを私は聞き逃さなかった。

 

「ニブい女……」

 

*     *     *

 

 聞き込みの成果が上がらないまま、3日の猶予を使いきろうとしていた。

 

 嫌々ながらも純一君がこの聞き込みに参加していたのは、若葉さんが「学校を休んででも聞き込みをする」と言いだしたからだった。しかし、放課後の数時間をかけても有力な目撃証言を見つけることは出来なかった。

 

「もう終わりにしよう……。人通りなんかなくなってしまったじゃないか」 

 

 

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