雪の残り【14】


  

 2人目はやや身体の小さい青い服の男の子。3番目は上背は最初の子よりちょっと高いひょろっとした子だった。彼らの投げた石も、私の頬の左右を微かに逸れて跳ねて行った。

 

「へへっ! 次は俺の番だな」

 

 一回りしたらしく、次に石を握ったのは最初に石を投げた赤い服の男の子だった。今度こそ当たる! 当たったときの痛みとかを想像すると、あまりの恐怖に失神してしまいそうだ、私は、ギュッと目をつぶった。神様の存在なんか、信じていなかったけれど、今回ばかりは神様に祈った。

 

 大抵の祈りは届かない。願いは叶わない。でも、時として届く時があるし、叶う時がある。何故そうなってしまうのかは、私には分からない。ある人はそれを運だと言うのかもしれない。ある人は、日頃の行いと言うのかもしれない。

 

 重要なのは、予想に反して4回目はなかなか飛んでこなかいわりに、「放せよ、この」という、男の子の声が飛んできたことだ。

 

 私は、恐る恐るその目を開けた。

 

「孝樹君……」

 

 私は、見覚えのある顔がそこにあることを認め、さっきまでの恐怖とは別の意味での涙が浮かんできた。いつ間に出現したのだろう。初めて見る黒い上下のトレーナー姿だったせいで、石を投げようとした男の子の腕を後ろから掴んでいるのが孝樹君だと気付くのにしばらく時間がかかった。

 

 黒は悪魔の色かもしれないけれど、今ばかりは孝樹君の黒いトレーナーが、天使の羽衣のように神々しく見えた。

 

 無言のままで孝樹君は、ぎりっと男の子の腕をねじり上げた。赤いTシャツの男の子は前がみになりながら、「痛い! 放してくれ!」と叫んだ。しかし、彼らに対しても助けが来ることはなかった。

 

「弱い者いじめって楽しいんだろ? 俺も一回やってみたいと思っていたんだよ」

 

 ゾクリとするような背筋が冷たくなるような低い声で、孝樹君が言い放った。

 

「待って。俺らが悪かったから……止めてくれ」

 

 31なのだから、まともにやれば高校生相手でも何とかなるはずだと思ったけれど、他の2人も、孝樹君に圧倒されたのか、腰が引けて声も出ず逃げることもできないようだった。

 

 孝樹君は男の子を11人睨みつけて、

 

「……お前ら、何でこんなことされていると思う?」

 

 孝樹君の口元に浮かんだうすら笑みは、今の3人にとっては悪魔の笑顔に感じていることだろう。

 

「……ね……猫?」

 

「違うね。たまたま虫の居所が悪かった所に、ボコっても問題なさそうな奴らがいたってだけさ。だから……」

 

 一瞬言葉を止めて、唇の端を歪めた。

 

「謝ったら赦してもらえるとか思うなよ?」

 

 背の高い黒服の男の子が「ひっ」と情けない声を上げてへたり込んだ。きっと私も、さっき似たような声を上げたんだろう。

 

「そんなの理不尽だ!」

 

 一番小柄な男の子が、涙声で叫んだ。その言葉を、そっくりそのまま返したいものだ。

 

「世の中は、理不尽にできているんだよ」

 

 孝樹君は相変わらずの口調で突き放すように言うと、小さく肩をすくめた。もちろんねじり上げた赤シャツの男の子の腕を離すことはない。

 

「でも、お前らは立派だな。逃げれば、2人は痛い思いをせずにすむのに。3人一緒にボコってもらいたいと思っているなら見上げたもんだよ。ま、逃げたらコイツ一人に3人分痛い目を見せるだけだけれど」

 

 孝樹君に腕を掴まれていない2人が顔を見合わせた。それが何を意味するのかに気付いた赤シャツの男の子が情けない声でわめいた。

 

「おい! 俺を見捨てるのか!」

 

「ふんっ! 中坊が」

 

 赤シャツの男の子の声を聞いた孝樹君は、そんな彼らを鼻で笑うと、「もういい。さっさと失せろ」と言った。しかし、掴んでいる手は放さなかった。

  

「もしも、誰かにチクってみろ。その時は、何十人か仲間を集めてお礼参りに行ってやるから。忘れるなよ」

 

 

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