財宝は地下迷宮の奥に


 青い空の下、砂色の屋根が見えてきた。あれが、次の目的地だ。

 

 俺は額に上げたゴーグルをずいっと下した。背中に荷物を積み込んだバイクのスピードを上げる。顔面に当たる風が強くなった。

 

 目の前にあるように見えるのになかなか近づいてくるように見えない。噂通り、巨大な古城だ。俺は、ぺろりと唇をなめた。

 

 俺は、俗に言うトレジャーハンターである。世界の遺跡を巡り、お宝をくすねていく。口の悪い連中は「コソ泥」だの「盗掘屋」だの言う。それがどうした。言いたい奴には言わせておく。大学の調査隊なんぞに荒らされるより、俺たちのような人間が手を付けた方がお宝もよっぽど有益に使えるというものだ。学術的な価値のありそうなものだのミイラだのはちゃんと残してやる。俺が欲しいのは金と宝石だけだ。

 

 今回向かっているのは、滅んだ公国の、いくつかあった城の一つである。500年前に公国が王国に併合されてからはどこかの貴族の持ち物になっていたらしいが、別荘としても使われなくなって長いという。

 

 ……まぁ、あたりの景色は風光明媚とはとても言えないし、陰気な土地柄で気軽に来ようという気にはならない土地だから、それも当然と言えば当然だ。

 

 その分、この城の調査は何度もやっている。

 

 中央政府や大学、民間の調査機関が何度も入っていて、めぼしいものは何も残っていない――という話だ。

 

 お宝目当てが手を出すような代物ではない。

 

 ――と思うなかれ。

 

 なんと、この城の地下には広大な迷宮が広がっているのだ。

 

 この古城の地上部分にあった装飾品だけで相当の量だったらしい。宝物庫の中には、金貨銀貨で数十万枚、俺の乗っているバイクが数台買えるほどの宝石が一万点、武具だけで3000人分が残っていたとも聞く。地上だけでそれなのだ。地下に眠る宝はいかほどか……。

 

 しかも、地下迷宮に関してはまだ手付かずなのである。

 

 王国への併合、城の接収の際に、地下迷宮の地図は紛失してしまった。わずかな口伝で、相当に広いということが分かっているだけだ。中にあるのは数々の罠。恐るべきモンスター。そして、公国の歴史の中で貯めこまれてきた金銀財宝!

 

 内部の状況が危険すぎて調査機関の連中には手に負えなかった……という話もあるが、それは嘘だということは知っている。理由はもっと別のことだ。老朽化が進みすぎて崩れやすくなっているのは事実のようだが。

 

 そんなことを考えながら走っていると、ようやく城門が見えてきた。

 

 やっと着いたか――。

 

 俺は短く刈り上げた髪が風を受けて逆立つのを感じながら、にやりと笑う。

 

 城門を抜けて、全く手入れされていない荒れ果てた庭を爆走する。もともとはこの庭の美しさを見せつけるための石作りの通路も、ところどころ石が浮き上がり、醜いだけではなく危険極まりない。

 

 ガタつくバイクを全身で抑え込むように操作しながら直進すると、橋が見えてきた。

 

 バイクのブレーキを入れる。

 

 やれやれ……予想以上の荒れ果てようだ。

 

 ここからでも、城の石造りの壁が崩れ落ちているのがわかる。城の壁の色も砂埃でくすんでいる。窓から樹木の枝が突き出しているのも見える。城の中に木が生えているのだろう。この調子では野生動物も住み着いているかもしれない。

 

 ……ここからは、歩いてはいらなければならないかな。

 

 城への橋が架かっている堀の中には水はなく、スパイクが逆さに植え込まれている。飛び越えるのは難しいくらいの距離はあるが、この程度を乗り越える手段がなくてトレジャーハンターなんぞやってはいられない。

 

 さあて、城に入ったらまずやることは……まずは、地下迷宮への入り口を探さなくちゃな!

 

≪fin≫

  

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