けっこうどうでもいい話


 ちょっと不思議な話なんだけれど、まぁ、どうでもいい話なんだけれど……しようか。

 

 そう……あれは、十何年か昔――21世紀になったばかりの頃だったと思うよ。

 

 僕が中学生くらいだった頃の話だ。

 

 僕の生まれは、歴史は古いけれど人口は3万人にも満たない結構な田舎町で、娯楽の一つもない町だったから、あの噂も、そんな閉塞した空気に影響された誰かの与太話だと思っていたんだ。

 

 その話っていうのは……幽霊が出るような時間でもない真昼間に何気なく空を見上げたら飛行機が飛んでいた、って話だ。

 

 飛行機が空を飛んでいるなんて当たり前だって?

 

 そうだよな。

 

 それが普通の飛行機なら、ね。

 

 ゼロ戦ってわかるよな。旧日本軍の傑作戦闘機だよ。あれが飛んでたっていうんだ。見間違えようのない、快晴の空の下を、だよ。

 

 でも、今では当然、飛ばせるような機体は残っていないし、旧軍のとはいえ戦闘機の姿をした飛行機を飛ばすには色んな許可がいるし、誰かが復元したり映画の撮影とかで飛ばしたっていうのなら、大ニュースになるのが当たり前だ。

 

 ただの見間違いか、ただの大ウソか。

 

 最初は誰もがそう思ったんだけれど……。

 

 大人たちのなかにも見かけた人がたくさん出てきて、当時の町長とか、地元に居を構えていた大学の偉い教授とかまで見たと言いだすと、誰もが信じるようになったんだ。

 

 目撃証言はいつでも同じ。

 

 雲の少ない青空の日に空を見上げると、緑色のレシプロ機の機影が飛び去って行ったというんだ。

 

 あっという間に急上昇していたと言うので、カメラをもち合わせていた人も撮影することはできなかったんだそうだ。

 

 そのうち、撮影に成功した人には高額の懸賞金を――なんて話も出てきて、町にはカメラを持ち歩く人や、高額の懸賞金目当てに隣の町からやってくる人とか、意外なことに、ちょっとしたバブル状態になっていったんだ。

 

 ま、僕にはそんなことの恩恵に浸れる機会はなかったんだけれど。

 

 え? 僕? もちろん僕もカメラ持って歩いていたよ。当時はデジカメが大分安くなり始めていたころだったから、バイト代――親戚の店を手伝ってただけだけれど――奮発して買ったんだ。2万円くらいだったかな?

 

 でも、まぁ、何事も、探している時には見つからないもんだよね。

 

 僕がそれを見かけたのは、最初にその話を聞いてから3カ月ぐらいだろうか。

 

 季節は初夏から夏休みを抜けて、風が冷たくなり始める季節になっていた。

 

 その日は、デジカメは持っていなかった。

 

 窓の外を眺める生徒が多くて授業に身が入らないからって、学校がデジカメの持ち込みを禁止にしたんだ。

 

 学校からの帰り道――ふと、空を見上げた僕の前を、ずっと探していたはずのレシプロ機の機影が横切って行くのが見えたんだ。

 

 濃緑色の機体に、横っ腹には日の丸が描かれていた。

 

 見上げる僕の目には、機体下方の銀色の塗装の方がよく見えた。

 

 青空をスーッと線を引きながら上昇していく古い戦闘機の姿を目で追いながら、僕は呆然と呟いた。

 

「……何だこれは」って。

 

 そのシルエットは、僕知っているゼロ戦のそれはと違っていた。

 

 これは……確か、『紫電』という機体だ。

 

 思わず叫んでしまったね。

 

「誰だ! ゼロ戦だなんて言ったのは!」ってさ。

 

 僕がそんなことを思っている間に、目の前のレシプロ機は姿を消していた。

 

*   *   *

 

 話は、それで終わり。

 

 え? オチは、って? ゼロ戦はどうなったって?

 

 いやゼロ戦じゃなくて紫電……。

 

 一緒だろうって? ゼロ戦は三菱。紫電は川西。全然違うって……君は、そんなことはどうでもいいって言うけどサ。

 

 僕にとっては、ゼロ戦ではなかった時点で、正直どうでもいいやって思っているんだ。

 

 いつの間にか目撃談は無くなっていって、今では見たって話も聞かないし、懸賞金の話もうやむやになってしまったからバブル景気も終わったし。

 

 きっとほかの人にとっても、あれの正体が何だったかなんて、どうでもいい話なんじゃないかな?

 

 

  

《fin》

 

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