光の射すほうへ【11】


 天井までとても高く、その下に巨大な本棚が沢山置かれ、その中にはぎっしりと無数にも思える多種多様な本が押し込めれられていた。アカリが見下ろされているように感じたのは、この本棚のせいだ。

 

「……」

 

 アカリは、ファントムに囲まれたときとは違う意味で冷や汗が止まらなくなった。暗闇の世界で生きるようになって本など読まなくなって久しい。いきなり、これほどの量の本を付きつけられると拒否反応で蕁麻疹≪じんましん≫が出てきそうだ。

 

「この中に、目的のものがあったとしても、全部確かめるのに何年――いや、何十年かかるのかしら?」

 

 アカリは、天井近い本棚を見上げながら茫然となった。上の本を取るために脚立が用意されているが、アカリの背丈の3倍……いや4倍はありそうな高さで、一番上の棚の本を取ろうと思ったらめまいがしてくる。

 

「でも、一応、調べてみないとね……」

 

 アカリは呟きながら、まずは自分の背よりも低い位置の本を、一冊一冊、背表紙を確かめて回ることにした。

 

「人類の叡智≪えいち≫の集大成というのは……こういうのを言うのかしら」

 

 本棚の中には、数学、天文学、語学、歴史学、法学、軍事学、科学、物理学、経済学といった知識の本や、ロマンス、ミステリー、SF、ファンタジーといった小説までよりどりみどりに取り揃えられている。しかし、これだけあると、目的のものは見つけられないし、何よりも背表紙を見ているだけでげんなりする。

 

 アカリも書庫を一周したら早々に「もうダメ」と心が折れてしまっていた。

 

 ここは、後に回して他を調べてみようか……などと考えていると、入口を入ってすぐのところに、棚が置かれているのに気づいた。その上に絵が3枚、並べて立てかけられていて、3枚とも1人の少女がそれぞれ描かれていた。

 

 真ん中の絵の少女は下手な切り方のぼさぼさの短い髪が特徴的で、薄汚れているが色白の女の子。疲れた表情をしている。年はアカリと同じくらいだろうか。

 

 左右に置いてある絵に描かれている少女の雰囲気は、真ん中の女の子よりやや年上の、大人びた感じだった。

 

 右側には、胸元の黄色いリボンが特徴的な水色のドレスに身を包み、微笑みを浮かべた女の子。丁寧に化粧を施し、唇には紅が塗られている。ふんわりした髪の毛もアカリのような大雑把な切り方ではなく、シャギーの入れられたショートヘアで愛らしくも凛とした少女の魅力をさらに高めている。

 

 アカリは、自分が来ている服に目をやった。今着ている服はヘルに与えられたもので、ここに来るまで来ていた襤褸は今はどこにあるかわからない。この絵の少女が着ているようなドレスを一度身に纏≪まと≫ってみたいと思った。

 

 一番左側の絵には、赤いランニングシャツに短パン姿の女の子が描かれている。ずいぶん露出が多い服だと思う。化粧っ気のない顔に短く整えた髪。肌は日に焼けて褐色に変化している。目つきは3枚の絵の中で一番生き生きしているようにも感じる。

 

 再び真ん中の絵に顔を戻した。

 

 ……?

 

 アカリは真ん中をまじまじと見つめ、「あれっ! あれっ! あれぇー!」と声を上げて中央の絵を持ち上げた。

 

 堅くて表面はつるつるでひんやりした触感の画材に描かれた中央の絵を、アカリが指でなぞると絵には指の腹が映り、絵の女の子の顔は持ち上げると大きく見え方が変化した。

 

「これは鏡だ!」

 

 つまり、映っているのはアカリ自身の顔。初めて見る自分の顔をいろんな角度から映してまじまじと眺めた。

 

「へぇ! 私ってこんな顔してたんだ。思っていたよりも可愛い顔していると思わない? ねぇ、バルドル!」

 

 アカリはバルドルの方に向き直って笑顔を見せると、少し離れた本棚に挟まれた場所に立っているバルドルも、ちょっとだけ笑った表情を返した気がした。

 

「そっかそっか……」

 

 アカリが鏡を元の場所に戻そうとした時、鏡があった場所の後ろに、扉があるのに気づいた。少し小さめの金庫が壁に埋め込まれているようだ。小さい開け口には鍵穴が一つ。

 

  

10】へ  【目次】  【12】へ

 

▼あなたのクリックが創作の励みになります。▼