光の射すほうへ【1】


 最後に見た光の記憶は、視界を覆い尽くすほどの激しいものだった。あまりの眩しさに視界が塞がれ、アカリはとっさに手で光を遮ろうとした。光から逃れようと、身体をねじる。しかし逃れられなかった。14歳の少女が最後に見た光の記憶は、衝撃とともに脳裏に焼き付いている。

 

*   *   *

 

 世界から光が失われてどのくらいの時間が経つのだろう。ある時突然、世界は闇に包まれた。理由はわからない。誰に聞いても、きっと誰も知らないだろう。

 

 空には、太陽はおろか、月影も星々の瞬きも――足下を照らしてくれるあらゆる自然の光が失われていた。夜なのか昼なのかを知る術もない。人々は、松明やランプのわずかな光を頼りに、生活を続けていた。 

 

 町は、常に松明やランプでの灯りがともされ、その光が人々のわずかな希望となっていた。

 

 そんな世界を放浪して回っている少女、アカリが、たった今足を踏み入れた町も、そんなふうに少ない人々がわずかな光を頼りに肩を寄せ合い今日を生きる、小さな町の一つだった。 

 

「あなたは、ここで待っていてね」 

 

 アカリは町の外で、旅の同行者のバルドルの長い首をそっと撫でた。そのアカリの胸元に、バルドルは丸みのかかったくちばしを押しつける。

 

 バルドルの姿は一般的に言えば鳥によく似ていた。空のハンターの猛禽類を思わせるような鋭い眼光に凶悪な爪やくちばし――といったものには無縁で、ずんぐりした体格に長い首、その割に小さな顔。背丈はアカリよりかなり高く、小柄なアカリが両手を高く上に突き出したよりも、さらに高かった。顔は愛嬌のあるくりくりした丸い瞳。首を曲げて、その顔でアカリに頬ずりするのが好きなようで、よくそうしていた。飛ぶことはできないようだったが、羽を広げるとかなり大きかった。 

 

 全身は灰色に見える。闇の中でどうしてそれが分かるかといえば、バルドル自身が淡く光を放っているからだった。

 

 アカリにとってはそんなバルドルの存在は生命線だった。この闇に包まれた世界を町から町へと移動しながら放浪するには、わずかでも光が必要だったからだ。アカリはバルドルを神獣だと思っていたが、同時にたった一人の大切な友達だとも思っていた。

 

 アカリは自分の年齢を知らない。襤褸≪ぼろ≫で包まれた体型は、十代前半の幼さを残しながら大人に成長していく時期の、アンバランスなものだった。背はそれほど高くはないが、小顔で痩せ形で足はすらっと細くて長く、数年後にはスレンダーな美女になるだろう。世の中が平和だったなら、羨望の眼差しで見られたかもしれない。 

 

 また、白く細長い指も、自慢の対象になったかもしれないが、今の時代では、比べる者もおらず、なぜかは自分でもわからないが、その指をアカリは嫌悪していた。 

 

 鏡を見たことがほとんどないアカリは、自分の顔を知らなかった。ただ、髪は肩より短いショートカットになるように定期的に切るようにしていた。これも、好みがどうというより、逃げたり戦ったりするのに、髪が邪魔になるのを防ぐためである。 

 

 恒常的に手に入れられる光源を手に入れるのは、今や不可能に近い。この世界でアカリのように旅をしながら生活をしている者はほとんどいないはずだ。少なくとも、アカリは自分以外でそんな生き方をしている人に会ったことはなかった。

 

 町の外を自由に歩けない理由は、単に闇に閉ざされているからだけではない。闇の中にはファントムがいるからだ。

 

 闇はファントムの勢力範囲。ファントムとは人の影のような姿をしているとされる。そして、その手に触れられた者は魂を奪われ、死んでしまうとも。もちろん、魂を奪われるというのは比喩だが、ファントムに触れられた死体には傷一つなく、まるで魂を持っていかれたように見えるのだと聞く。しかし、このご時世で、死因を特定している余裕はとてもないから、つまるところ死因はよく分かっていない。

 

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