数百万人の人々が生活している中央都市の、中央の駅前に集まった人数は約100人ほどだった。横断幕を持ち、旗を掲げ、道行く人たちにも加わってもらえるように、賑やかに行進をしようと太鼓やシンバルも用意した。
「マザーが無視できないほど盛大にやってやるぞ」
予定の時間となり、私がそう呟いたのとほとんど同時に、ドーンという太鼓の音が轟き、中央駅前を真っ直ぐに伸びるメインストリートをデモ隊は歩き始めた。
私たちは拳を振り上げ、声を張り上げた。
「人間に努力する権利を!」
「人間に不平等な自由を!」
「今の生活は、本当に正しいのか!」
その様子を見つけた通行人も近付いてくる。我々は自分たちの主張を書いたビラを、力いっぱい投げ散らかした。今現在の生活に満足している人たちにも聞いてほしかった。
「人間に――!」
だが、デモ行進が始まってそれほど動いてもいないのに、突然、行進が止まった。
「ど、どうした!」
私は、慌てて先頭に駆けて行くと、その光景を見て絶句した。確かに、マザーは無視はしなかった。我々を、盛大に出迎えてくれていたのである。メインストリートにバリケードが敷かれ、その後ろに銃を持ったロボット兵団の兵士たちが立ちはだかっていた。
本気だろうか……。
私は戸惑う。私――いや、私たちは、一度上手くいったせいで何か勘違いをしていたのかもしれない。大声で喚き散らして、自分たちの主張を繰り返せば、相手は必ず聞かざるを得ないと。力ずくでねじ伏せられる可能性など、考えてもいなかった。
「あなたたちは、法を犯しています。今すぐに解散しなさい」
ロボット兵士が、無機質な電気音声で我々に警告を発する。
その威圧的な物言いに対して、デモ隊の中からは、「ひるむな! ロボットに人間は傷つけられん!」という声が上がった。言ったのは私ではないが私自身もそう思っていた。ロボットの使命は人間の生活を守ることにある。そして私たちは、れっきとしたこの国の国民なのだ。
この時、人間を殺せなくて兵士が務まるはずがないという、当然と言えば当然のことを、完全に失念していたのである。それ以前に、マザーが、私たちを守るべき市民とみなさなくなる可能性など、考えすらしなかったのである。
おもむろに鋼鉄の兵士たちは小銃を水平に傾け、黒光りする銃口を私たちに向けた。
自分たちが甘かったと気付くのは、私の目に銃口から飛んだ火花が焼き付き、耳を銃声が通り過ぎてからだった。
今度は警告も何もなかった。
馬鹿な――と思う間もなかった。ここには、デモにも無関係な者も、大勢いるのに。私は、自分の体に弾丸がめり込んでくる感触を感じながら、ようやくロボットと人間は所詮、全く異質なものであるという事実を認識していた。
私は膝をついた。フルオートで打ち出された銃弾は、私の体を比喩ではなくハチの巣にした。私の視界は真っ赤に染まっていた。大勢の人たちから飛び散る鮮血だけが私の目に焼きついていた。そして、眼前の人々の血まみれの惨状は私自身の姿でもあった。この状態で私は生きていたのか、この時まだ、私は思考らしきものをしていた。
近付いてくるロボットの兵士たちが話しているような気がしたが、それは現実だったのか、幻聴だったのか。私は、幻聴だろうとなんだろうと、必死で聞いてその内容を理解しようと頭を回転させた。そうしなければ、このまま消えてしまうと思った。
「人間はどうして、与えられるだけで満足できないのだろう」
「より向上しようと努力し、権利を獲得するために戦うのは人間の美徳でもある」
「そうやって天井知らずの向上心や権利意識を振り回した結果、人間の生活環境はぼろぼろになってしまった」
「我々のやるべきことは、人間の生活を守ることだ」
もはや考えることさえできなくなっていく。最後に私が思ったのは、もう二度と帰らぬ我が家で、私の帰りを待っているであろう白黒のぶちの犬がこれからどうなってしまうのか……ということだった。
私の意識は暗転した。
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