わたくしは、おいおいと泣きながら、話を終わらせました。今度こそ、これで、お話しできることは全てでございます。
「いや、まだ聞かねばならぬことは残っておる」
と、椋木様はおっしゃいました。
「そなたらの亡骸がどこに捨てられたのか分からねば、供養することもできん」
わたくしは、自分の死体がどこに捨てられたのか分かっておりませんでしたが、それは善吉さんがよく覚えておりました。わたくしどもの亡骸は、江戸の外れの竹やぶの中に埋まっているそうでございます。
善吉さんから詳しい話を聞いた椋木様は、しっかりと頷かれ、
「おぬしらの亡骸は、拙者が必ず見つけ、和尚に頼んで供養してもらうことを約束しよう。安心いたせ」
椋木様は悪人やもしれませんが、この約束は信用しても良いものだと感じました。
わたくしには、信用するよりほかはなかったのでございますが……。
* * *
全てを話し終えたわたくしと善吉さんは、仏様の像に向かって手を合わせ、心の中で一心に、「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」と、唱えておりました。
和尚様が、わたくしどものために、読経をしてくださっているのです。木魚の音を聞きながら、これで現世ともお別れなのだとしみじみ感じておりました。
少しずつ、気が遠くなっていくような気がいたします。まるで、現世《うつつよ》こそが、悪い夢であったかのように、父の顔、母の顔、幼き日の思い出もまた遠のいていくようでございます。
「げに恐ろしきは、人間の欲望なり。自らの欲のために、浮かばれぬ魂までも利用しようとは」
読経が一旦止まった時、聞こえない程度のお声で、和尚様が呟きになったのか聞こえました。わたくしは、両手を合わせて祈りながら、心の中で「いいえ和尚さま。それは違います」と申しました。
椋木様のお情けにおすがりできると思わばこそ、わたくしどもは心安らかに、後々のことに不安を感じることなく、冥土へと旅立てると云うものなのです。
それが、悪心から出たものであろうと、良心から出たものであろうと、わたくしたちにとっては、選択の余地は何もないのでございますから。
ただ最期に望むなら……。
いえ、もはやこれ以上、何を望もうと云うのでしょう。ここまでしていただいて、さらに文句を云っては、贅沢と云うものでございます。
ああ……温かく心地よい……。
痛みも、恐れも、もはや何も感じませぬ。和尚様が読み上げてくださっているありがたいお経も、もはやわたくしの耳には届きません。
これが、成仏と云うものなのでしょうか……。
《fin》
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